ヒロセ・コサック

FULL SPEED TOWARDS FUTURE

【ネタバレ無し】「世界をゆるがした十日間」ミクロからマクロまで十月革命を描いた素晴らしいドキュメンタリー小説

f:id:liangqimin1998:20190702010022j:plain

仙台の古本屋「あらえみし」に偶々出会った。今じゃ珍しいちくま文庫のバージョンです

「世界をゆるがした十日間」を読了した。一言いうと、この本は偉大である。さすがCombined Syndicates of Americanの指導者たる者(hearts of iron: kaiserreichのネタ)ジョン“ジャック”リードの作品だけあって、読者を魅力する感染力、紛らわしい十月革命を分かりやすく伝えてくれる説明力、そして一人ひとりの労働者の歓喜から全ロシアの動きまで記録する表現力、どちらも最高としか言えない。本のあらすじは作者のロシアの旅で見たボリシェヴィキが蜂起した前夜からすべての権力がソビエトへ移転したまでの過程そのものであり、ここで省略する。かつてのレビューのほとんどはネタバレ有りだったが、歴史そのものを描くルポルタージュにとってはネタバレなんて存在しないので、今回【ネタバレ無し】と書いておいた。本を読んでいない方もどうぞご安心にこの記事を読んでください。

f:id:liangqimin1998:20190701220727p:plain

hearts of iron 4 :kaiserreichという架空歴史のゲームには、作者ジョンリードは社会主義アメリカの総書記である。

日本にはソ連ボリシェヴィキ社会主義などのキーワードを敬遠する方々が少なくないが、この本は社会主義プロパガンダじゃなくて、英文学のルポルタージュの傑作としても非常に読む価値があると思う。もちろん、十月革命や20世紀早期のロシア歴史を知りたい方なら、絶対にこの本を見逃してはいけない。作者がアメリカの社会主義新聞の記者とはいえ、書く時はちゃんと当時のアメリカ一般大衆も多少読めるように配慮したような気がする。特に本編の前にいくつかの背景説明がついてあるので、ロシア革命にそんなに詳しいじゃなくても読めると思う。もし本当に読みづらいと思ったら、一旦難しそうな講演、新聞記事などの書き取りを飛ばして、本の全体を把握してから、いろいろ調べて、もう一度読み直せば大体わかるようになれると思う。

 この本のすばらしさは、以下に4点にまとめている。

 【相対的な中立性】

 ジョン•リードは紛れもない社会主義者であり、この本を書く時もロシア革命を宣伝するために色々浪漫的な描写をしたが、ケレンスキー政権や社会革命党やペトログラードドゥーマの会議にも出席し、極端右翼から中道左派までの新聞紙を書き取った。作者はロシアのあちこちに旅する際に使った通行証のほとんどはボリシェヴィキに発行されたものとはいえ、彼はボリシェヴィキに誘導されたのではなく、自分の意志でロシアのあちこちに旅を出た。ある程度で中立性を反映したと思う。

しかし、ここで強調したいのは、歴史の本を読む以上、中立性ばかり求めるのが無意味である。ましてや文学性も注意しなければならないルポルタージュならなおさらだ。有意義な歴史である以上、絶対に何らかの思想や方向性を反応していると思う。全く中立な歴史は、すなわち現在の人間にとって無意味な歴史である。

 【優れた感染力】

 では、ジョン•リードは多少の中立性を犠牲して得たのはどのようなものでしょう。それは優れた感染力だと思う。この本を実際に読んだことのある方も多分僕の意見を同意してくれるんでしょう。

 後書きで、訳者の小笠原先生が書いたように、リードは写真やドキュメンタリーのような絶対的な正しさよりも、全体的な印象を優先にした。しかしここで注意しておきたいのは、リードはロシア革命がいかに偉大であるかとか、レーニン同志はいかに賢いかとか、全然言わなかった。正しさより全体的な印象を優先させるというのは、下手なアジテーションじゃなく、一部のディテールを省いて、象徴的、代表的な対話、事件、戦闘、会議を取り上げ、あそこに読者の注意を集中させるのだと思う。このような大胆的な描写があるこそ、革命のイメージを一般大衆の心にも伝えるんでしょう。

更に、先も言ったように、この本には大量な各政党各勢力のビラ、新聞記事、告知、法律、命令、会議の記録、講演などが入り混じっている。これらのテクストは全く背景知識のない一般大衆にとって難解だが、その感染力も抜群である。なぜなら、これらのテクストの一部を作成したレーニントロツキーは20世紀において最も有名なアジテーターであることがさぞ皆さんも分かるんでしょう。下手にプロのアジテーターのテクストを書き換えるよりも、そのまま書き写す方は感染力がある。もちろん、ボリシェヴィキの観点を受け入れない以上、彼らのアジテーションも空気と同然だが、社会革命党やケレンスキー側が作成したテクストも少なくないので、反共的な読者も割と楽しめると思う。

【ミクロからマクロまで全方位的な記録】

本の中の情報によると、ジョン•リードがこの本を書く時はペトログラード周辺とモスクワしか行かなかった。にもかかわらず、作者は大量な新聞記事、会議、談話、講演を通じて、全ロシアの動きを把握し、生々しく描いてくれた。作者の足跡が両首都(две столицы россии)に留まったが、ロシア革命においてこの二つの町もまた、革命の行方を左右し、全国に決定的な影響を与えた最も重要な町だから、この二つの町からロシア全体を描くのが十分可能だと思う。更に、序文によると、ジョン•リードは「コルニーロフからブレストブレスト=リトフスクまで」というロシア革命全体をもっと詳しく描く作品を書いていたが、残念ながら作者が病気に早世してしまったせいで、この本は未完成のままで出版されなかった。

ミクロの側面に関しては、ジョン.リードはボリシェヴィキの巣窟たるスモリヌイ学院やドゥーマにこもるではなく、ペトログラードのあちこちにまわり、革命にめぐる事件を目撃したり、当事者の言葉を記録したり、労働者と兵士を話したりして、一人ひとりの労働者、兵士、電話嬢、党員の思いと感情や、ペトログラード市の変化を伝えてくれた。

このような素晴らしいミクロな記録があるからこそ、読者の僕らは当時の当事者と共感し、革命そのものをまるで目で見たように身に染みるのではないか。そして、当時、ないし現在の西側の大衆は往々にしてロシアのような所謂民主的な伝統が乏しい国の国民が哀れな、愚かな、指示を従うばかりの者に過ぎたいという極めて誤った認識がある。このような素晴らしいミクロな記録があるからこそ、誤った認識を打ち破り、ちゃんとロシアの労働者と兵士すら自発的な紀律性、革命性、そして自治と民主を求む進歩性を持っていることを示せるのではないか。

【左翼と右翼の伝統的な叙事を打ち破る】

これは本書の素晴らしさだけじゃなく、共産主義はもうとっくに死んだ今においても読むべきところだと思う。

伝統的な左翼叙事によると、ボリシェヴィキが議会闘争の虚偽性を見破れ、武装闘争の道を歩み、やがて1917年の10月という諸条件が充分に成熟した時を狙って蜂起を起こし、労働者と兵士の歓声の中で政権を手にした。その後はすぐさま展開した正義たる赤軍対邪悪たる白軍の無様な内戦である。

でも、実際にこの本を読んでみたら、そうでもないのをすぐわかった。ボリシェヴィキが議会闘争嫌いのは、自分がソビエトというロシアの伝統的な民意を反映する議会を握っていたからのではないか。蜂起した後、ボリシェヴィキもできる限り憲法制定会議や全ロシアソビエト大会のような会議で労働者と兵士代表の合意を得たうえで、行動していた。そして蜂起が成功した後、労働者全体がもれなくボリシェヴィキをすぐ歓迎したわけでもない、鉄道組合や通信組合はむしろ中立を強く主張していた。最後、蜂起前後、ボリシェヴィキはむしろ内戦と流血を抑えたかった。それは実現できなかったのは多少致し方ないと思うけど。

伝統的な右翼叙事によると、革命というのは秩序を覆し、破壊し、殺し、強盗するような野蛮な極まりない大惨事である。特に社会主義革命は、反共的なマスコミのプロパガンダの影響で、もうすでに独裁、飢饉、ホロコーストと強く結んでしまった。僕は決してその後ソ連の堕落を否定しない、作者のジョン.リードは20年代もう一度ロシアに訪ねた時も幻滅した。

しかし、この本を読めば、早期なボリシェヴィキはむしろ当時最悪なロシアにおいて最善な選択肢としか言えない。なぜというと、まず、革命前のロシア共和国において、独裁、飢饉、ホロコーストもはや蔓延していたのだ。それを止めて、多少な民主、パン、平和をもたらしたのはむしろロシア共和国を葬ったボリシェヴィキだと思う。ケレンスキーは社会革命党の革命理想を捨て、ロシア労働者と農民に対して階級独裁を行った。これは独裁という。約束した土地問題の解決を先延ばし、経済体制を戦争体制に無理やりに維持した。これは飢饉という。兵士の声を無視し、無意味な戦争を強いて続け、毎日たくさんな兵士が無駄に死なせた。これはホロコーストという。ケレンスキーのロシア共和国がそれらの問題を解決しない限り、ボリシェヴィキにせよ、コルニーロフにせよ、社会革命党過激派にせよ、新たなs勢力が必ず誕生し、ロシア共和国を葬り、問題を解決できる新体制を作るでしょう。更に、ボリシェヴィキが政権を取った後、すぐにすべての権力をソビエトへの移転、土地問題の解決、平和の呼びかけ、そしてパンの調達に急いだ。その結果、ボリシェヴィキも突然、社会革命党や立憲民主党のような強力政党を超え、ロシアの労働者、兵士ないし農民に最も信頼された政党になり、政権を反動勢力の反撃から守った。

ロシア革命が100年経った今、当時の事実とディテールが情報の騒音によって。ますます薄めていく。残されたのは好都合な叙事だけだ。叙事ばかりを繰り返すのは別にどんなに悪いとは思わないが、叙事は所詮社会科学における一種のモデルであり、事実を無視して叙事だけリピートすると、モデルもどんどん現実に合わなくなり、使えなくなるんでしょう。今の新左翼や、ネオンファシズムと呼ばれている連中はまさに自分の叙事をリピートするのを夢中にして、やがて大衆から離れていくのではないか。

しかし、ここで注意してほしいのは、叙事をリピートしているのは決して過激な政治組織だけじゃなく、マスコミも常にそうしてるのだ。十月革命の前夜までだって、ロシアの誰でもこれからボリシェヴィキが政権を取るなんて信じていなかった。ボリシェヴィキの幹部すらそう甘く思わなかった。しかし、現実はどうだ!長く無視されたロシア労働者と兵士のソビエトが政権に不意打ちして、成功したんじゃないか。このようなパターンもまた、数年前のBrexitとトランプの選挙に現れたんじゃないか!それこそ、今我々はこの本を読んで、叙事のリピート再生から離脱してもう一度百年前の現実、そして今の現実に目を向けるべきだと思うのだ。

 

 語りたい内容はまだまだたくさんあるが、さすがに5000字以上にするのはちょっと気違い過ぎると思うので、ここで一旦打ち切る。またまとめて時間があれば、別の記事にしましょう。